末太シノ グループ展直前インタビュー

去る11月24日、3331 Arts Chiyodaでのグループ展「STANZA vol.4」を控えた末太シノ(まつだ・しの)さんに、自身の作品について語ってもらいました。
日本画と漫画、そして能面制作(!)を通して、マルチな表現を追い求める末太さんの魅力に迫ります。
(聞き手:伊能あずさ)

■グループ展を控えて

伊能:
いよいよ29日から展覧会ですね。制作はどんな感じですか?

末太:
ちょうど今日終わりました!
私は諦めが早いので、ギリギリまでは描きたくないんだよね。

伊能:
わりと搬入直前まで粘って制作する人が多いのに珍しいね。というか偉い(笑)
シノさんは一昨年、昨年とコンスタントに作品を発表してきてるけど、今回制作面で変化したことはありましたか?

末太:
うん、全体的に去年より良くなったと思う。
もともと岩絵具の緑に惹かれて緑の植物を描くようになったんだけど、今回は岩絵具を使うのではなく、能面の彩色方法を参考にして理想的な緑色を研究してみたんだ。
去年は自分の出したい色を出すのに精一杯だったけど、今回は色の出し方も分かってきたし、植物を抽象化した造形も上手くいった気がする。制作しながら学びがありました。

■能面の彩色がヒントの「理想の緑」

伊能:
能面の彩色って、具体的にはどんな方法なんですか?

末太:
胡粉(ごふん/貝殻から作られた白色顔料)と水干絵具(すいひえのぐ/胡粉や白土に染料で色をつけた顔料)で塗ったところを削っていって、そこに粉を入れて……の繰り返しで色を作っていくんだ。
聞いた話だと、狩野派は白緑(びゃくろく)の絵具を下地に塗ることで、絵の具の剥落を防いでいたらしくて。
私はそれを参考にして描いているんだけど、剥落止めというよりは、絵具層を削ってやすりをかけると浮き出てくる白緑の色が気に入ってるんだよね。

伊能:
古典技法への関心が高いんだね。

末太:
そうだね。大学では技法のことをあまり細かく教えてもらえなかったから、技法書を読んで自分で勉強してる。
それと、通っている能面教室の先生が、ある有名な日本画家の天井画が剥落したのを例にあげて「昔の技術は断絶している」と言っていたのにショックを受けたんだよね。
今の人たちの方がモノや技術に恵まれているのに、どうして昔の人に勝てないんだろう、って。

伊能:
その悔しさが技法追究の原動力になっている?

末太:
ものの性質を理解した技法に挑戦したいと常に思っていて。
でも、昔の人たちと同じやり方で戦っても勝てないんだよね。まず今と昔では気候が全然違うし、必ずしも古典技法が正解にはならない。今の技法で堅牢な作品を作ってはじめて、昔の人に勝ったと言えるんだと思う。
だから、私は今回アートグルー(樹脂製の日本画媒材。通常使われる媒材(膠)よりも扱いが容易)を使ってみたんだ。
正解かどうかは時間が経たないと分からないけど、アートグルーは胡粉の白が透き通った色になるのが特長で、私はそこが好きなんだよね。

伊能:
油彩画のメディウムみたいな感じ?

末太:
そうだね。
でもグルーの量を少なくすれば、膠で胡粉を使ったみたいにマットな質感も表現できるから、だんだん使いこなしていきたいな。
あとは、ちょっと分量を間違えても膠染みができないのが楽(笑)

■こだわりのルーツは千住博!

伊能:
シノさんといえば「緑色の植物画」ですが、そこにこだわり続ける理由はなんなのでしょうか。

末太:
植物がすごく描きたかったというのもあるけど、脇役になりがちな緑をなんとか主役にできないか、と思ったのが一番大きな動機かな。
モチーフとしては人間も好きで、学生の頃は人間と植物を一緒に描いていたんだけど、それだと人間がどうしてもメインになっちゃうんだよね。

伊能:
それで「人間」とは決別?

末太:
実はCGでも人間を描いていたんだけど、扱いが難しい日本画材を使わなくても、CGで十分に自分の理想どおり表現できるってことに気付いたんだよね。
それに、人間を描くなら時間の流れとかを付与できる表現方法、つまり漫画の方が向いていると思ったから、日本画は「緑」、漫画は「人間」、そして能面制作で「人間の表情」と割り切っていくことにしました。

伊能:
そうやってスッキリ気持ちの整理をつけられるのがすごいよね。

末太:
高校生の頃に『千住博の美術の授業 絵を描く悦び(光文社新書、2004年)』を読んで、すごく影響を受けたことがあって。
千住さんは《ウォーターフォール》が有名だけど、あのシンプルな画面は、余計なモチーフを削って削って捨てていって、どうしても捨てきれなかったものを描いた結果なのだと書いてあって、「それいいな」と思ったんだよね。
だから高校時代から、できるだけ余計なものを捨てていって、遅くとも大学在学中には「これを極めるぞ」と思えるモチーフを決めようと思ってた。

伊能:
高校時代からそんなに強い意思をもって美大に進学してくる人、稀だと思うなあ。さすがです。

末太:
でも好きなものは捨てきれなかったから、日本画・漫画・能面で全部やってます。

■植物好きの原風景

伊能:
植物が好きになった具体的なきっかけ、何かありますか?

末太:
そうだなー、小さい頃に住んでいた社宅の庭が好きで、そこで雑草に親しんだのがきっかけだったのかも。

伊能:
学部1年のころ、初夏の課題で芝生の絵を提出したりしてたのが印象に残ってるなあ。それだけでなく、よく芝生に寝転びにいったり(笑)

末太:
そう。多摩美に入学したのも、他の美大と比べて雑草が多かったからなんだよね。
入学したてのころ、大学の前に生えていたセイタカアワダチソウのパワーに感動したことがあったんだ。
そのときは落ち込んで自分を卑下していたけど、「こんなに世界が美しく見えるなら、自分は世界に祝福されている!」と一気にポジティブになれて、あのパワーにあやかりたいという気持ちが湧き上がってきた。

伊能:
シノさん、植物に愛されてるね。
身の回りのありとあらゆる植物に関心が向いていると思うんだけど、そのなかでも特に作品のモチーフとして好きな植物はありますか?

末太:
やっぱり、セイタカアワダチソウみたいに縦方向に伸びていく植物がすごく好きだな。
あとはツツジも好き。葉っぱの細長い形と、独特の黄緑色が特に。

芝生に寝転ぶのもそうだけど、植物の中に溶け込みたいという欲があって、溶け込めるような広さが感じられる絵を目指しています。

■盤石なロジックの上で、おおらかに表現する

伊能:
シノさんって色々な分野に見識があって、しかも出てくる言葉に毎回しっかりとした起結があるから、元来論理的な性質をもっている人だと思うんですよね。
でも、作品制作では緻密にロジックを組み立てていく手法をとらず、むしろおおらかに手を動かしているように見えるんだけど、その辺りに自覚はありますか?

末太:
ありがとう(笑)
実際その通りで、漫画を読んでくれた人から「雑っぽいところが、逆に勢いになっていて良い」と言われたことがあるよ。
多分手を大きく動かすのが好きなんだと思う。

伊能:
子どもの頃から動くのが好きだった方?

末太:
赤ちゃんの頃のビデオを見たらすでに回るのが好きだったみたいで、グルグル回転してた。コーヒーカップも限界まで回してたな。

伊能:
今も円をえがくように循環する線をよく描いているけど、その影響?

末太:
そうかもしれない。
小さな頃好きだった絵本がインコのお話だったんだけど、インコが作った巣の形がいい感じの丸みを帯びていて、大好きだったんだ。
あとは『ダンボールのおうち』という絵本の中の、ダンボールで作ったおうちのガス台がピンクの丸い形で、すごく好きだった。
なんか、丸いものを見ていると幸せになれるんだよね。

伊能:
日本画でも漫画でも、見ていていつも筆勢がかっこいいなあと思うんだけど、シノさんは線もおおらかに、一発で決めるタイプなのかな。

末太:
意外とそうでもなくて、いっぱい線を描いて、これにしようって決めることの方が多いよ。
でも候補の線はゆっくり確実に引くのではなく、シャーって描いて「できた!」みたいな感じ。いつも、失敗してもいいや、という気持ちでやってる。
子どもの頃、先生から「(シノは)負ける勝負には手を出さない子だ」と言われたことがあって、すごく悔しかった。
元々の性格は、漢字を練習するとき、文字の直線部分を定規で引くほどの慎重派で(笑)
だから、完璧主義が過ぎて今の大胆な表現になったのかもしれない、と思うなあ。

■「STANZA vol.4」の出品作品について

伊能:
今回の展覧会に出品するのは、どんな作品ですか?

末太:
メインは《伸びる》《拡がる》《枝垂れる》というタイトルの3作品で、その名の通り、植物の動きを表現するために描いた作品です。
具象的に植物を描くのではなく、動きを表現するのに良い形と色を選んで構成してみました。
《伸びる》は、縦方向に延びる植物をイメージしたので、縦線。
《拡がる》は、タンポポの花が咲いていない状態みたいに、円状に拡がる葉っぱ。
《枝垂れる》は、クズやツタのような木がだらんとしている状態
を、それぞれイメージしています。
あとは、グループ展の共通テーマになっている「影」を描いた作品も出しているよ。

伊能:
今までのシノさんの絵にはなかった抽象的な構成だけど、草だとわかるような具象的な手がかりも描いているのかな?

末太:
描いてるね。あくまでも草、ということは言いたかったので。
あとは具象的な描写だけでなく、質感の表現でも草っぽい感じを出そうとしているよ。
私は岩絵具の緑の使い方では東山魁夷が最強だと思ってるんだけど、能面の彩色技法などにトライして、魁夷の表現との差別化に挑戦してます。そのあたりのこだわりを見てほしい。

■おわりに

伊能:
最後に、ひとことで宣伝をお願いします。

末太:
難しいなー(笑)
もう4年くらい、毎年「緑」の日本画作品を発表しているので「今年の緑はこんな感じです! 来年は違うかも?」といった風に、楽しみにしてもらえたらと思います。

伊能:
展覧会が終わったらやりたいこと、ありますか?

末太:
京都の絵具屋さんが売っている水干絵具の緑がとても良い色なので、また行きたい!

以上、末太シノさんのインタビューでした。(アップが遅くなってごめんなさい!)
この記事が末太さんの面白さを知る一助となれば嬉しいです。ありがとうございました!